【演奏や人生の役に立つコラム】「一物もまた無し」~僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法 第13回





 

2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。

そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。

第13回となる今回はのタイトルは「一物もまた無し」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。


 

何かを学ぼうとする時、自分にとってメリットが期待できるものだけを取り入れようとしていませんか?
効率、時短、コスパ・・そんな一見聞こえの良い言葉に踊らされて、要らないものは徹底的に排除し、自分がまだ持っていないスキルだけを習得したい。
そんな風に思ったことはありませんか?

しかしそんな思考が私たちの行動を阻害し、鈍らせるかもしれません。

 

「一物(いちもつ)も也(ま)た無(な)し」。「景徳傳燈録(けいとくでんとうろく)」という中国の北宋時代に作られた禅宗の歴史書にある言葉です。

昨年末のガキ使で稲垣吾郎が「大きな一物をください」と歌って全国に衝撃を与えていましたが、あの一物とは一切関係はありません。そんな私は除夜の鐘のため泣く泣くガキ使を見るのを途中で切り上げました。

 

話を戻して、「一物も也た無し」というのは、「自分には何も無い。だから何かを習得する時に、あえて何かを取捨選択する必要はない」という意味です。

自分は何も持っていない。だから何が自分にとって必要かそうでないか考える前に、とにかくやってみる。リスクを顧みずまず行動に移す。全てを吸収すればいい。
個人的には、人生に一度はこういう「ガムシャラにやる」時期が必要だと思っています。

 

私事で大変恐縮ではありますが、私にとってイギリスで勉強していた時がこの「ガムシャラにやる」時期でした。

日本で一切音楽の学校に行ったことが無く、当然実力も知名度も無い状態でした。向こうの学校では当然のごとく一番下手くそな底辺奏者。

「この年齢でイギリスまで来て、何も成す事なく一年経ったら音楽をキッパリ辞めよう」という事を決めてガムシャラにやりました。
幸いにも半年経つ頃には良い話が色々と舞い込んできて、音楽を辞めずに済みました。

 

「ガムシャラにやる」と言っても、具体的にどうするのか。
端的にいうと、「与えられた事も自分のやりたい事も全力で挑む」という事だと思います。

学校だったら試験だったり課題だったり、色々な曲をやらなければいけません。仕事だったら依頼を受けた演奏をこなさなくてはなりません。それが自分のやりたい事とは外れていても、です。

 

普通の考えだと「無駄な体力を消耗したくないから今はこっちの手を抜こう」とか「今はやりたい事をやる時期!だから宿題はテキトーでいいや」などとなりますが、「ガムシャラにやる」という事は「問答無用で与えられたもの全てに最大限の力を注ぎ込む」ことです。

これが限界だ、と思っている自分のキャパシティに臆する事なく、やりたい事もやらなければならない事も全て全力で取り組むことも時には必要なのです。

 

とは言っても、人間厳しく自分の尻を自分で叩くのは苦手な生き物…。
そこで私たちがゴールに向かって奮起するのをサポートしてくれるのが、やはりモチベーションなのです。
当然の話ですが、「あーなんかやる気でないなー」という状態でダラダラとやっていたら、与えられた事も“そこそこ”の結果となり、やりたい事も「やりたいなー」と思っているだけで実現するために必要な事をしないまま時間だけが過ぎていくでしょう。

 

人間は「ある程度得るものができた時」にモチベーションを失います。
一定の生活の基盤、ある程度の自分の実力、ある程度の知名度…。それらが自分の手に入ったら、人は「自分の能力を上げる」段階から抜け出し、「今持っているもので何とかする」段階に入ります。その時にモチベーションが下がります。

 

なので、モチベーションを維持するためには「今持っているもので何とかする」状態から抜け出し、一度「自分はまだ何も持っていない」と初心に帰り、やりたい事も与えられた事も四の五の言わずとにかくやるのです。

「一物も也た無し」。考え方を少し変えてみるだけでも行動は変わります。

今回のコラムはこれで終わりです。

マンマン満足!コラム書けて満足!


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今回も面白いお話が聞けましたね!

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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。


【福原泰明 プロフィール】

東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。

2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。

同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。

2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。




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